今週のハイライト


9月20日、『蘭島行』の初日を観に 渋谷のユーロスペースへ出かけた。
ロビーには熱狂的映画ファンが集まる。
いち早く自分の目で世界に羽ばたく映画の初日を発見するためのように。
そこで待っていると、
映画を観る準備がゆっくりと身体の内側に積もっていく。
シネコンに慣れた身には、この“濃度”がかえって心地よい。

ユーロスペースはただ映画を流す箱じゃない。
作品を育て、外の世界に解き放つ孵化器のような場所だ。
2018年、上田慎一郎監督の『カメラを止めるな!』がそうだった。
たった二館公開から始まり、口コミが火の手のように広がり、
気がつけば全国300館、興行収入30億円を超えた。
あの社会現象の始まりは、ほかならぬこの劇場のスクリーンだった。 
是枝裕和の『誰も知らない』も忘れられない。
実際の事件をモチーフに、柳楽優弥の表情に観客が息をのんだ。
やがて彼はカンヌ映画祭で史上最年少の主演男優賞をさらう。
あの瞬間を日本で見守る観客のひとりでいられたことは、
ユーロスペースに通う者の誇りでもある。

そんな場所で『蘭島行』の幕が開いた。
木村知貴、輝有子、足立智充。キャストの顔ぶれに気負いはない。
それでも画面が始まると、観光写真には決して映らない北海道の景色が、
じわりと胸の奥を締めつけてきた。
曇天の海、色褪せた防波堤、潮風にきしむ家並み。
すべてが人物の感情と呼吸を合わせている。
帰郷した男の心の揺らぎ、家族の距離感。
そのあわいを、風景そのものが物語る。

優しさの嘘を飲み込んでしまうような海原に漂う哀しみ。
そしてその底にかすかに灯る温もり。
鎌田監督は、北海道という土地に宿る「人間のあや」をすくい取る
稀有な映像作家だと思う。
観光案内に出てくるきらびやかさではなく、
暮らしに沁み込んだ湿り気や孤独を、そのまま映しとる。

上映後、ロビーに出ると観客が言葉少なにうなずき合っていた。
サイン会は階段の下まで行列ができていた。

広島でも興行できたらよいな。クラファンも行っている。ボクも応援したい。



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