出演:医学博士・大阪大学 大学院 医学系研究科 保健学専攻 招へい教授
株式会社FMCC 代表取締役社長 倉恒弘彦さん
Q年も明けて、忙しくなってきましたし、
今年は昨年同様、コロナ禍で余分な仕事や心労が増えている方が多いと思います。
疲れというものは、みなさん、どんな受け止め方をしているんでしょうか?
⇒残念ながら、ごく最近の疲労に関する疫学調査は特に行われていません。
しかし、日本における疲れに関しましては以下のようなことがわかってきています。
1979年に行われた総理府の「体力・スポーツに関する世論調査」では、
61.9%の人が「よく疲れる」もしくは「ときどき疲れる」と答えており、
当時から多くの日本人は日常的に疲労感を感じていました。
しかし、58.9%の人は一晩眠れば翌日は疲れがとれると回答し、
またあまり健康でないと答えた人は14.4%に過ぎず、
当時の疲労は安静や休息により回復する生理的なものでした。
しかし、1999年、厚生省研究班(大阪大学)が
一般地域住民4000名を対象に疲労の実態調査を行ったところ、
36%の人々が半年以上続く慢性的な疲労を自覚しており、
その半数近くの人が慢性疲労のために
日常生活や労働に何らかの支障をきたしていることがわかりました。
2000年に行った医療機関を受診する患者2180名の調査でも、
45%の患者に半年以上続く慢性的な疲労が認められ、
その半数近くの人が生活や労働に何らかの支障をきたしていました。
したがって、この20数年間において疲労の質が変化し、
慢性的な疲労が蔓延してきています。
Q疲れている人が増えていますし、
疲労の質が変わってきているんですか?
⇒私が厚生労働省研究班の代表として実施しました
疫学調査(2012年、有効回答数1130名)でも、
39%の人々が半年以上続く疲労を自覚し、
5.2%の人は「疲労のためにしばしば休息が必要」、
2.3%の人は「疲労のため月に数日は社会生活やしばしば休息が必要」と
答えていました。
したがって、慢性的な疲労はプライマリケアを担っている診療所においても
対処するべき重要な課題の1つになってきています。
Qずいぶん、疲れている人が多いですが、この疲れを放っておくとどうなりますか?
⇒疲れやだるさなどの感覚は、人間にとって痛みや発熱などと同じように
体の異常や変調を自覚するための重要なアラーム信号の1つです。
激しい運動や長時間の作業をしていますと、
体の細胞レベルではたんぱく質や遺伝子に傷が増えてきます。
限界以上に増えますと細胞は壊れてしまいますので、
傷を修復する必要があります。
しかし、運動や作業などの活動を続けたままでは
細胞の傷を修復することでできません。
そこで、ヒトは疲労感を自覚することにより休息を取り、
体を元の健康な状態に戻しているのです。
Q自分で疲れを自覚するためのアラームなんですね。
では、カフェインのたっぷり入ったエナジードリンクなどが売れていると聞きますが、
こういったものでごまかしていくというは、どうでしょうか?
⇒もし休みたくないからといって、慢性的な疲労状態が続く中で、
自分の判断でカフェインのたっぷり入ったエナジードリンクなどを服用して
疲労感を取り去ってしまいますと、
細胞の傷を修復できなくなり、
心筋梗塞、脳血管障害などの過労死に陥ることがあります。
Q脳も関係しているんでしょうか?
⇒疲労を認識しているのは脳ですので、
脳に機能異常が生じていますと手足などの骨格筋系組織や内臓などの組織といった
末梢の組織に異常がなくても疲労感を自覚することになります。
ですので、疲労なき疲労感や、
疲労感なき疲労などの状態でみられることになります。
最近の私たちの研究では、脳の免疫細胞であるミクログリアの再活性化、
つまり脳の神経炎症が、慢性的な疲労の原因となっていることが
明らかになってきています。
実は新型コロナで言われている症状の慢性的な疲れと同じかもしれない。
Q 脳で炎症が起きてることが疲れの原因?では、どうしたらいいですか?
⇒一般的には、日常生活で経験している生理学的な疲労は、
体を休めることによりもとの正常な状態に回復し、
長く続くことはありません。
したがって、疲れを自覚された場合は、
まずは休息を取って頂くことが原則です。
しかし、風邪などの感染症や炎症性疾患、悪性腫瘍などの
身体疾患に罹患した場合や、自律神経系の障害、不安障害、うつ病などの
メンタルヘルス障害に陥った場合など、
病気に伴う疲労感は生理学的な疲労感とは異なり、
体を休めるだけではなかなか回復しません。
休息を取っても、1週間以上疲れが続く場合は、
疾病に伴う疲労の可能性もありますので、
ホームドクターである内科などを受診して頂き、
生活習慣病などが原因ではないかの鑑別診断を受けて頂くことが重要です。
また、身体疾患がみられない場合でも疲れが続く場合は、
うつ病や不安障害などメンタルヘルス障害がみられることがありますので、
心療内科などで鑑別診断を受けて頂くことも大切です。
Q 慢性的な疲労の場合は?
⇒慢性的な疲労は生活環境ストレスと遺伝的要因によって引き起こされた
神経・内分泌・免疫系の変調に基づく病態であると考えています。
免疫力の低下に伴って、
体に潜伏感染していたヘルペスウイルスなどの再活性化がひきおこされると、
このウイルスの増殖を抑えるために免疫物質が産生されてきます。
これら免疫物質は、本来体を守るためにつくられたものですが、
これが脳の中では神経系の機能障害や神経炎症を引き起こしていると思われます。
Q 慢性疲労、どう対処したらいいですか?
⇒疾病に伴う慢性疲労は疾病に対する治療を受けて頂くことが原則です。
疾病ではなく、生理的な疲労が遷延しているような慢性的な疲労の場合は、
免疫力の低下が病態と深くかかわっていることが多く、
免疫力が高まることを期待して漢方薬投与と
「笑い」や「生きがい」を保持させる生活指導を基本的な治療として推奨しています。
アロマ、ストレッチ、ヨガ、音楽、瞑想などが免疫力を高めることもありますので、
自分に合った対処法を見つけることも大切です。
Q 寝ることはどうでしょうか?
⇒良質の睡眠をとることが疲労回復に極めて重要であり、
客観的評価で睡眠異常がみられる場合は
睡眠に対する指導や治療をおこなっています。
酸化ストレスが上昇している場合は、
ビタミンC(大量)、CoQ10、イミダペプチドなど
抗酸化力の向上が期待できる健康食品の摂取を勧めています。
さらに、慢性疲労病態ではエネルギー代謝系の異常がみられることも判明していて、
クエン酸、カルニチン、ビタミンB1などの摂取も効果が期待できます。
Q 自分が疲れているかどうか、判定するアプリを開発されたそうですが、
アプリ「脳疲労・ストレススキャン」、試してみました。面白いアプリですね。
⇒疲労状態を客観的に評価することはとても大切です。
自律神経脳評価は、客観的な疲労評価法の中で簡便な手法ですので、
まずためしていただくことをお勧めしています。
Q 自律神経脳評価って何なんですか?
⇒ヒトが長期にわたってストレス状態に陥った時、
立ちくらみや動悸,頭痛,発汗異常,下痢・便秘などの症状を
自覚することが多い。
このような症状には,胃腸や心臓の活動や発汗などを調節している自律神経機能には
しばしば歪がみられることが良く知られています。
自律神経機能については,
心電図や脈波などを用いて心拍の周波数解析を行うことにより、
交感神経や副交感神経の活動や自律神経バランスを
客観的に判定することが可能であり、
自律神経機能の変化を客観的に評価することにより,
疲労やストレスの状態を推測することができます。
Q こういった手軽なものがありがたいですね。
⇒現在はiPhoneのみの対応ですが、2021年4月にはAndroid版もリリースする予定。
FMCCのアプリ「脳疲労・ストレススキャン」をぜひ試してみてください。
Q結果の活用方法の相談なども受けていただけるんですよね?
⇒株式会社FMCCの自律神経相談コーナーで
電話相談10分1,100円で受け付けておりますので、ご活用ください。